地龍の剣56

   大陰謀の巻3

二日後の昼過ぎ、鬼の勇五郎に奈須屋から知らせが来た。丁度その時勇五郎は、奉行所から命ぜられた木島屋の見張りを手下に任せて、家に帰って来たところだった。連絡は偽小判を使った一味の三人が今現れたとの事だった。勇五郎は奈須屋に急いで向かった。入口からそっと覗くと、お客は三人だけで奥の座席に陣取って酒を飲んでいた。勇五郎は裏口に廻り、親父に目配せして調理場の隅にそっと入った。三人からは勇五郎は見えないが、勇五郎には三人の話が良く聞こえるのだ。しばらく詰まらぬ話を我慢して聞いていると、急に声を落として話し出した。

「次の仕事で終りだという事だが、やっと金がたんまり貰えるぞ。三十両の約束だが幾らか色を付けてくれるらしいな。」

「兄貴、そりゃ本当か? そいつはありがてえ。ところで次の押し込みは何処をやるんだ?」

「材木問屋の紀州屋だ。ここは二千両くらい有るらしい。」

「ホー、それは美味しいな。」

「ところで何時やるんだ?」

「そこはまだはっきりしねえようだ。おっと、この話を誰かに聞かれたらあぶねえ。止めだ、止めだ。」

そう言って三人は店の中を見回したが、調理場の奥に親父が居るだけだった。あそこまでは聞こえてないなと安心してまた飲み始めたのだ。勇五郎はこの会話から、あの三人は押し込み強盗の一味だという事が分かったのであった。半刻程して人足風の男四人が店に入ってきたのを機に、三人は金を払って店を後にした。勇五郎は裏口からそっと出て、気付かれないよう三人の後を追い始めた。三人は神田川に出ると下流に向かった。下流には和泉橋が架かっている。その橋を渡った三人は川岸にある木島屋の材木置き場に入っていった。

勇五郎は少し拍子抜けしていた。自分が先程まで見張っていた材木置き場だったからだ。そして三人はその奥にある家に入っていった。そこが押し込み一味の塒だったのだ。そしてこの事で大黒屋の押し込み強盗一味と、木島屋が絡んでいる事がはっきりしたのだ。勇五郎は峰山屋敷に急いで向かった。報告を聞いた峰山親子は、今までの探索で得た情報と実際が合致しつつある事を感じていた。そして勇五郎に引き続き木島屋の見張りを注意深くするように頼んだ。そして峰山親子は直ぐに南町奉行所に向かった。

「そうか、押し込み強盗の隠れ家が木島屋の材木置き場の奥にあったのか。考えてみれば一番隠れ易い所だな。いつでも捕縛できるが如何するか。」

奉行の言葉に山岸同心が答えた。

「お奉行、今直ぐにでも捕らえたいところですが、雑魚を捕まえても木島屋が姿を消して動きが分からなくなってしまいます。」

「山岸、その通りだ。しかし押し込みの動きが有れば、捕らえなければならないのだぞ。」

そこに清之進が割って入った。

「お奉行、山岸殿、もう少し全体を見て考えましょう。何時、如何動くのが一番良いのかです。押し込み一味の捕縛が最初で良いのか、一万両が出来た時なのか、御前がその一万両を配る前なのか、後なのか。上様暗殺阻止のため、一番良い動きは何なのかをよく考えねばなりません。」

「峰山殿、すまん。つい焦って考えが上っ面だったようだ。言われた通り一番重要な事は上様の暗殺阻止である。この暗殺実行部隊は風魔の生き残り忍者であると。ところが風魔に関しては何一つ情報が無いのだ。」

少しの間沈黙が場を支配したが、それを清之進が破った。

「風魔が何処に隠れているか分からなくても、隠れている風魔を表舞台に引き出し、始末すれば宜しいかと思います。舞台は上様のいる江戸城となるでしょうが、問題はいつ現れるかですな。」

「父上、それに関して少し考えがあります。」

龍之進はこの事件をどういう手順及び手段で解決していくのか、数日間ずっと考えていたのだった。

「まず最後の押し込み強盗の決行は、一万両を御前の所に運びこんだ後と考えます。悪党共にとってどちらが重要かと考えると、押し込みより一万両輸送の方が重要だからです。押し込みは奴らの仕事の最後の駄賃ではないかと思います。さてそこで一万両を御前の手に渡した方が良いかどうか考えると、渡してしまうとそれが幕閣にばら撒かれて、後の対応が面倒になると考えます。よって御前の手に渡る前に一万両を押さえようと思います。」

そこまで龍之進が話した時、奉行が呟いた。

「ウム、成程。すると押し込みの件は当面は心配する事は無いという事か。大店の者達が殺されることは無いという事だな。そして幕閣に金が渡ったら、我々の力が及ばない大事件になってしまうな。それでその後は如何する? 龍之進殿。」

「まず一万両の輸送手段ですが、舟か駕籠か大八車が考えられますが、多分大八車を使うと思います。木島屋では大八車に材木を積んで運んでいます。そこでその材木の下に千両箱を積んでおけば誰も気付きません。我々は少人数でその大八車の後を尾行します。そこでいつ一万両を押さえるかですが、一万両は必ず御前に手渡しするはずです。そこで御前がその時居る屋敷の門前にしようかと考えます。」

具体的な場所を示されて山岸は思わず声を発した。

「門前だと? 何でだ?」

「山岸、龍之進殿のいう事を黙って聞け。」

次回 地龍の剣57 に続く

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タイに仕事で10数年滞在していました。日曜日はゴルフをしていましたが、ある時花の綺麗さとカラフルな鳥の美しさに気付いてしまいました。  それからはカメラをバッグに入れてゴルフです。あるゴルフ場では「写真撮りの日本人」で有名になってしまいました。(あ、ゴルフ場には迷惑をかけておりません。)それらの写真をメインに日本での写真も織り交ぜて見ていただければ幸いです。 また、異郷の地で日本を思いつつ自作した歌を風景の動画とともにご紹介していきたいと思っています。