紅葉色の中央アルプス

この10月2日の朝、珍しく山に雲がかかっていませんでした。慌てて車に乗り南下して、山のビューポイントに向かいました。

下の写真… 中央アルプス北部の中心にある千畳敷カールと宝剣岳2931mです。夏の緑と白い岩の風景から一変しました。普段は無粋なロープウェイの支柱も、この時期は赤色故に周囲に調和し、かつ画面を引き締めています。画面一番右の乗越浄土への急坂を拡大すると、大勢の登山者が登って行くのが見えます。

下の写真… 更に南下して、中央アルプス南部が良く見える場所に行きました。左端から仙涯嶺2734m、南駒ケ岳2841m、中央の雲に隠れている赤梛岳2798m、そして右は空木岳2864mです。

下の写真… 仙涯嶺です。この山は中央アルプス南部では一番危険な山です。2019年2月10日にこの山で、日本を代表するトレイルランナーの一人として有名な西田由香里さんが滑落してお亡くなりになりました。西田さんはTJAR(トランスジャパンアルプスレース)という大会で完走しました。2002年から今までに女性で完走できたのはたったの4人しかいません。そのレースは富山の日本海海岸から日本アルプスを縦断し、静岡の太平洋の海岸まで走る非常に過酷なレースです。最近の優勝者はこのコース415㎞を5日弱で踏破しています。このレースに出るにはテストがあり、運よく合格してレースに出れても完走出来るのは非常に困難だという事です。それを2014年の大会で完走した田中由香里さん、惜しい人を亡くしてしまいました。急ですが今日10月16日夜7時半からNHKのBSで2021年のTJARの放映があります。是非ご覧になって下さい。

丁度この時、宝剣岳でも二人の方が滑落して亡くなっています。北アルプスは穂高連峰の様に山域全体が危険地帯ですが、中央アルプスはそうではなく、上記2か所の様にピンポイントで危険地帯が存在します。私も高校の頃中央アルプス北部や南部の縦走をしましたが、宝剣岳南稜や仙涯嶺は夏でも恐ろしい所でした。

下の写真… 左の大きな山は南駒ケ岳2841mです。右下に大きなガレ場がありますが、これを百間ナギといいます。

下の写真… 百間ナギの大写しです。恐ろしいほどの大ガレ場で、毎年少しづつガレて削れて後退していきます。この下は与田切川支流のオンボロ沢になります。オンボロという名前の由来は分かりませんが、この沢の両岸は大絶壁が続きます。よってこの一帯は人は殆ど入りません。この百間ナギの後ろは擂鉢窪といい、カール地形になります。カールにはモレーンがあるのですが、既に崖から崩れ落ちて見当たりません。しかしこのカールの中の紅葉がとても美しいと、テレビで山塾の荻原編集長が登山して紹介していました。

このカールの先端、つまり崖っぷちに擂鉢窪避難小屋があります。画面を拡大すると崖先端中央部に赤い三角屋根が見えます。いつかはこの小屋も崖に飲み込まれるでしょう。なぜこんな危険な所に小屋を作ったのでしょう。もっと奥に作れば問題ないのですが、そうは問屋は卸しません。山側に作れば今度は雪崩で潰れてしまいます。カール地形は雪崩の巣なのです。しかも雪崩は毎年起きます。やはりここでは小屋は先端に作るのが安全なのです。

更にこの百間ナギは小説にも出て来ます。私の大好きな佐伯泰英先生の時代小説「交代寄合伊那衆異聞」第10巻 「難航」第二章 早乙女 にこの南ア南部の山の縦走と百間ナギでの敵との戦いが展開されています。主人公は座光寺家の藤之助でスケールの大きな小説です。最後は艦隊を率いて南シナ海からマラッカ海峡辺りまで暴れまわります。全部で23巻もある夢とロマンの大冒険小説です。皆様も是非ご一読することをお薦めします。

下の写真… 百名山の空木岳です。私が中央アルプスで一番思い出があり、大好きな山です。若い時にはお盆の帰省で、木曽の倉本駅から歩き出し、空木岳を越えて伊那側の菅ノ台に下った事もありました。今では無理でしょうね。画面右の稜線に駒峰ヒュッテの黒い小屋が見えます。

2021年10月16日 記  カメラ SONY  RX10Ⅳ

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タイに仕事で10数年滞在していました。日曜日はゴルフをしていましたが、ある時花の綺麗さとカラフルな鳥の美しさに気付いてしまいました。  それからはカメラをバッグに入れてゴルフです。あるゴルフ場では「写真撮りの日本人」で有名になってしまいました。(あ、ゴルフ場には迷惑をかけておりません。)それらの写真をメインに日本での写真も織り交ぜて見ていただければ幸いです。 また、異郷の地で日本を思いつつ自作した歌を風景の動画とともにご紹介していきたいと思っています。