天国のある日の出来事

妄想恢恢、粗にしてお粗末

ある日の夕方の事でした。天国では宇宙の創造主のコモン様が弟子を連れて、天国の美しい花園で散歩をしておりました。透き通るようなピンクの花が咲いた蓮池のほとりを通った時、コモン様は友人のお釈迦様に以前言われた事をフト思い出しました。

「そう言えばこの蓮池の下に人間達の地獄があり、お釈迦様がカンダタという男にクモの糸を垂らして地獄から助けようとしたが、その男の自分だけ助かりたいという邪な心でクモの糸が切れて再度地獄に落ちて行ったそうな。今は如何なっているのかな? スケールさん、そのハスの葉を退かして池の底の地獄を覗いてみて下さい。」

弟子のスケールさんは早速ハスの葉をそっと退けて、池の底の地獄を除き込みました。地獄は火の山に照らされてボオッと赤黒く光って見えます。血の池は何故か空っぽで罪人はいません。針の山には鬼に追い立てられた罪人が足から血を流しながら登って行きますが、罪人が多すぎて足の踏み場もない位です。そして針の山が終わると次は火の山に追い立てられます。真っ赤な溶岩に焼かれる者、灼熱の火口に突き落とされる者数を知れず。そして野原では鬼共が罪人を捕まえて、大きな青龍刀で腹を割き、手、足、首を切り落としています。罪人たちは刑によって死ぬことは出来ず、地獄の責め苦を繰り返しています。そしてカンダタは何処かとよく見ると、姿をクモに変えられ、草むらの陰のクモの巣の真中でクモの糸に必死に捕まっています。カンダタの”何でこんな事になったんだ”という声がスケールさんの耳に聞こえてきました。

「コモン様、カンダタはクモの姿に変えられ、クモの巣を張って獲物が掛かるのを待っています。が、獲物が掛かっても獲物を絡め捕るクモの糸は弱く、直ぐにプツプツと切れて獲物に逃げられて、餌にありつけない飢餓の刑を受けているようです。それとは別ですが、気掛かりなのは昔より地獄がかなり繁盛している事です。」

「そうですか。カンダタの改心はまだの様ですね、早く改心出来ると良いですな。ところで地獄が繁盛するという事は忌々しき事ですな。カクテルさん、どうして罪人が増えたのか、閻魔大王の所に行って聴いてきてください。」

もう一人の弟子のカクテルさんは瞬間移動で閻魔大王の横に立ちました。

「オオ、カクテルさんか、久し振りじゃの。コモン様の用事ですかな?」

「閻魔さん、その通りです。昔より罪人が多いようですが、どのような罪人が増えたのですか?」

「儂もそれを嘆いている所です。昔の犯罪は金が無い、食い物が無いために犯す罪が多くてな。社会的に弱者な者の犯罪で情状酌量の余地もあり、儂も手心を加えていた。しかし今は違う。金持ちが、労働者に最低の生活するのにも不足する給料で過負荷の労働を負わせて、その搾取した金を使って自分の歪んだ欲望を満たすように悪事を働いているのじゃよ。昔は人のために金を使ったが、今では自分の欲望を満たすだけの心の貧しい金持ちが増えてきたのじゃ。そしてそういった奴に限って地獄があると信じている者はおらず、地獄に来て初めてしまったと思う者が大半じゃな。しまったと思った時にはもう遅いのじゃがな。」

「そうなのですか。人間界は昔の人情味ある世界から堕落した世界になってしまったのですね。」

「そうなのじゃ。儂が忙しくなるようでは人間界は終わりじゃな。手下の鬼共も人手が?いや違った、鬼手が足らず罪人に対する責めが甘くなっているのじゃ。針の山に追うにも罪人が多すぎて目が行き届かず、針の山の手前でこっそり隠れている奴も居る。血の池は罪人が多すぎて池の血が溢れだし、毎回血を補充しているため血の在庫が底をついてしまい、今では血の池地獄のイベントは休止中じゃよ。そういう状態なので責めが甘くなり改心するのが遅くなり、地獄の満員状態が解消しないのじゃよ。」

「弱った事ですね。コモン様に根本解決をお願いしなければいけないのかな。」

「カクテルさん、そこを宜しくお願いして下され。もう地獄だけの努力ではどうにもならんのじゃ。」

「分かりました。早速コモン様にお伝えします。」

カクテルさんはそう言うと、閻魔大王の前からスッと消えました。

……この後は次回の続編に続きます。だけど、芥川先生に怒られそうです。

妄想恢恢、粗にしてお粗末 でした。

2021年2月26日 記

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タイに仕事で10数年滞在していました。日曜日はゴルフをしていましたが、ある時花の綺麗さとカラフルな鳥の美しさに気付いてしまいました。  それからはカメラをバッグに入れてゴルフです。あるゴルフ場では「写真撮りの日本人」で有名になってしまいました。(あ、ゴルフ場には迷惑をかけておりません。)それらの写真をメインに日本での写真も織り交ぜて見ていただければ幸いです。 また、異郷の地で日本を思いつつ自作した歌を風景の動画とともにご紹介していきたいと思っています。