クロスズメバチ ハチの子と巣の観察

伊那谷の風物詩に「スガレ追い」があります。スガレとはクロスズメバチの事です。他の県ではヘボと呼ぶところがあります。テレビではハチの後を5~6人で追いかける場面がありますが、本当はそんな事では見つけるのは難しいのです。多分テレビ用に分かり易くするためにその形を取ったものと思います。実際は最初にハチを飛ばしてどの方向に行くか見定めます。そして最初に追いかける人と、少し前方でハチが来るのを待ち構える人と二手に分かれます。時によっては更にその前方に人を配します。このようにしてリレー方式でハチの追跡をしていきます。ハチの巣までの距離は大体100m~500mです。その間に藪あり、尾根あり、谷ありで追いかける難しさが違ってきます。

ハチの巣の遠さは餌に戻って来る間隔で分かります。大体3~5分位ですが、3分以内の時は100m以内の近場に巣があります。しかしこの間隔は絶対的なものではありません。ハチの巣の中にエサを必要としているハチの子が少ない時は、必死にエサを運ぶ必要が無いので巣の中でのんびりとして時間かかって餌に戻って来ます。その為遠い所にあるなと気合を入れて追いかけると直ぐ近くにあったりして拍子抜けします。

反対にエサをたくさん必要としている時は、3分で帰ってきても意外と遠くに巣があり、中々見つかりません。そのかわり大きい巣が多いような気がします。また、エサを運ぶハチが成虫になったばかりなのか、ずっと前に成虫になっていてエサ運びの経験が豊富なハチかでエサに喰いつく態度が違います。ずっと前に成虫になったハチは目印を付けた大きなエサを持って、目印を付けた糸を気にせず素早く飛んでくれます。ところが成虫になったばかりのか弱いハチは、小さなエサしか持っていきませんので、エサに付けた目印の糸にすぐ気付き、それをかみ切ろうとしてちっとも飛んで行ってくれません。

いずれにしてもそういう苦労をしてハチの巣を見つけ、自宅の庭に巣を持って来て飼います。

下の写真… 巣の入口から煙幕を入れ、ハチを気絶させてから巣を掘り上げます。

下の写真… 巣の周りにはハチがたくさん取り付いていますが、煙で気絶しているので危険はありません。

下の写真… 取り出した巣は7枚ほどあり、その内の一枚です。働き蜂の巣で直径は長い方で24~25cmくらいあります。真ん中は幼虫で、周りの白い膜を被っている所は蛹です。その中でも特に黒っぽく見える所はもう直ぐハチの成虫になる寸前です。巣を大きくしながら順番に卵を産んでいる事が分かります。

下の写真… 被っている膜の一部を除去した写真です。左の巣の中心部に近い所の蛹は成虫になりかかっています。そしてその回りはまだ変化途中の蛹になり、外側に行くほど変化が始まったばかりの蛹になります。これを見ると女王蜂が整然と卵を産んでいるのが分かりますね。決して出鱈目ではありません。顔の向きまで揃っています。

下の写真… ハチの子を変態の順に並べてみました。右から左に変化していきます。右の三つはまだ膜を被らない幼虫で、それより左は膜を被った蛹の状態です。蛹になると餌は食べません。膜を被ると餌は要らない意思表示になります。膜のもう一つの意味は、変態中は蛹の体が極端に柔らかく、外からの刺激で傷つき易くなるのを防ぐためです。特に右から5番目あたりは柔らかく、膜を上手に取らないと頭部も一緒に取れてしまいます。

また右から1番~3番の幼虫は働き蜂から餌をもらいます。そしてそのお礼として、栄養価の高い液を口から出し働き蜂に与えます。それが右側の1番の幼虫の口元に出ています。赤丸の中心部に透明な液があるのが分かると思います。人間で言えばリポビタンのようなものでしょう。しかしハチはこの液が無いと弱って死んでしまいます。その為、巣を攻撃されると幼虫を守るために必死に反撃してきます。幼虫を守る事は自分の生死にかかわる事だからです。このハチの場合は親の愛は無償の愛ではありませんが、死ぬか生きるかの運命共同体の強いきずなで結ばれています。

余談… ハチの子の頭を軽くつつくと、この透明な液を口から出してくれます。いたずらに20匹くらいの子の頭をつついて液を出してもらい、ベロッとなめてみました。どんな味がしたかって? 答えは味がしませんでした。液自体に味が無いのか、少なすぎて味が感じられないのか分かりません。たぶん一滴の量を取るためには何百匹の子から液を集める必要があると思います。いつか挑戦してみたいです。

下の写真… 空っぽに見える所はハチの卵や小さな幼虫がいます。写真の赤丸の中にハチの卵があるのが見えます。そしてその直ぐ外側の所は成虫になる寸前のハチがいます。そしてそのハチが羽化して外に出て部屋が空になると、女王蜂が来て卵を産み付けます。

下の写真… 秋になると働き蜂の巣だけでなく、女王蜂や交尾の為だけの雄蜂の巣を作り始めます。その巣は働き蜂より大きな部屋を持った巣になります。左側が働き蜂の巣、右側が女王蜂の巣です。部屋の大きさの違いが分かると思います。

下の写真… 女王蜂の巣の白い膜を三角形に取り除いてみました。きれいな正三角形になっています。この正三角形の一片の長さは約61㎜で、この中に55匹の女王蜂の子がいます。直径20cmの巣には1072匹のハチの子が入る事が出来ます。働き蜂の巣では、正三角形の一片の長さは約43㎜で55匹の子が入り、直径20cmの巣では2159匹の子が入ります。仮に直径20cmの働き蜂の巣が5段あれば、収容人数?1万を超えます。人間界で言えば超大規模ホテルですね。

ハチの巣を作る意味を考察してみると、先ず第一に考えられるのは狭い空間に最大数の子を育てられるという事です。第二にそれをきちんと餌やり出来るという事です。これがもし巣が無く幼虫が何千引きもウジャウジャうごめいていたら、餌をやったのかやらないのか訳が分からなくなりますね。

そして第三に、これが隠れた重要な理由だと思いますが、エサをやって成長する効率が最大になる事です。どういう事かというと、もし蝶の幼虫の様に動いてエサを自分で取るためには、それなりのエネルギーを使うという事です。それがハチの場合は巣の中でジッとしていてエサをもらうだけですから、エサに対する成長の効率が良くなるわけです。そのため最低限のエサで成虫になり、それは取ってきた餌に対して最大数の子を育てる事が出来るという事です。その目的は来年の為の女王蜂を最大数にしようという事になります。。

そこでいつも疑問が起きるのですが、そういった仕組みを誰が何時考えたのかという事です。植物の受粉でもそうですが、昆虫を媒介に使おうと誰が考えついたのかという事です。植物にも他の生命を感知し、それを利用しようという脳があるという事ですが、どこにあるのでしょう? 突き詰めるとこの世の中分からないことだらけですね。

2020年11月17日 記  カメラ SONY  RX10Ⅳ

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タイに仕事で10数年滞在していました。日曜日はゴルフをしていましたが、ある時花の綺麗さとカラフルな鳥の美しさに気付いてしまいました。  それからはカメラをバッグに入れてゴルフです。あるゴルフ場では「写真撮りの日本人」で有名になってしまいました。(あ、ゴルフ場には迷惑をかけておりません。)それらの写真をメインに日本での写真も織り交ぜて見ていただければ幸いです。 また、異郷の地で日本を思いつつ自作した歌を風景の動画とともにご紹介していきたいと思っています。